「誠心誠意」の精神を守り、 継承していく職人集団「中尾醸造」

「安芸の小京都」と呼ばれ親しまれてきた広島・竹原市に位置する中尾醸造。中尾醸造の歴史は1871年(明治4年)、米を扱っていた「廣島屋」が、地酒を醸したことから始まる。

 酒造りを進めるにつれ、「杯を注いだ酒の表情を鏡に例え、蔵人の誠の心を(味に反映させ)映し出してほしい」という願いを込め「誠鏡」の酒銘柄が誕生した。その精神は今も蔵人達に引き継がれ、守られている。

 中尾醸造には、「誠鏡」と「幻」という2つの銘柄があり、最初に誕生したのは「誠鏡」。日本酒が持つ旨みをしっかり味わいつつ、後味がスッと消える軽やかな酒質を持ち合わせ、竹原の風土や食材と良くあうお酒である。

 そして、その誠鏡を特徴づけたのは、4代目当主の中尾清磨氏が独自に開発したリンゴ酵母だ。リンゴの皮から採取したリンゴ酵母は驚くほど香りが高く、フルーツのような品のある香り、控えめで爽やかな酸味、アルコール発酵力の強さ、どれを取っても申し分がなかった。

 長年の研究の末、発見したリンゴ酵母に活路を見出した中尾醸造だが、リンゴ酵母は酵母自体が弱く、他の酵母に負けてしまうという弱点があった。

 清磨氏はリンゴ酵母を純粋に育てる方法はないかと考え、その結果「高温糖化酒母法」を完成させた。通常、酒母は20℃位で仕込むが、高温糖化酒母法では55℃を8時間維持して仕込むことにより、酒母全体を無菌状態にしながら糖化することが出来る。8時間後、今度は酒母を20℃まで冷やしてリンゴ酵母を添加することで、リンゴ酵母100%の酒母が完成する。

 リンゴ酵母とこの技術でできた大吟醸を昭和23年の全国新酒品評会に出したところ、その香り高さと味わいの良さが他の追随を許すことなく1位を獲得し、3年連続で「皇室新年御用酒」の栄誉に輝く。

 後に、5代目当主の中尾義孝氏がこのお酒に「幻」という名前をつけ世に出したが、これは全国1位を受賞してから26年目のことだった。そして、中尾醸造はこの技術を蔵秘伝にはせず、日本全国に広く公開した。これは、日本酒の品質向上の一端を担うことになる。

 蔵の中に入ると、想像以上の広い空間に機械や設備が並んでいる。荒谷さんからひとつずつ酒造りの流れと機械の役割について教えていただいたが、荒谷さんの優しい表情から、それぞれの設備を丁寧に手入れされ、大切に管理されていると感じた。

 機械化が進み、設備が整ってくると全部機械に任せて大丈夫と思いがちだが、中尾醸造では、機械の得意分野はしっかり任せ、その分、人の手をかければかけるほどいい日本酒ができる工程は杜氏や蔵人たちのこれまで培ってきた技術で担う。そうして、蔵人たちの想いを込めた日本酒が出来上がっていく。

 荒谷さんに酒造りで大切にしていることを伺った。
「私が杜氏になって11年になりますが、年々酒造りが難しくなっていると感じます。気候変動や夏場の高温障害が米作りにも影響していて、米が割れやすくなっています。米が割れると雑味に繋がるので、米を割らないように丁寧に優しく扱って仕込みをしていますが、これが想像以上に大変です。でも、ウチのお酒を楽しみにしている人が沢山待ってくださってますから、その方達に「今年も美味しいね」と言っていただけるお酒を届けたい。これからも自分達の誠意が現れるお酒を造っていきたいです。」と話してくれた。

 営業担当の濱咲さんも酒造りには直接携わっていないが、「誠鏡」の精神を大切にお酒を届けている。「営業はお酒を販売するだけではなく、中と外を繋ぐ役割があると思います。誠意をもって造ったお酒を、取引先やお客様にその想いと一緒にお届けする。そして、営業中の会話の中から生まれるアイデアや新しい情報を持ち帰って、皆に伝えて新しい挑戦の種にしてもらう。そうやって新陳代謝を繰り返しながら、変わらぬ「誠鏡」と「幻」を守っていきたいです。」

 荒谷さんと濱咲さんのお二人にお話しを伺い、中尾醸造のお酒が更に好きになった。数年前に一度蔵に訪問させていただいた時にも感じたが、常に一本筋の通った想いでお酒を造り、届けられている。

 しかし、昔からずっと同じというわけではなく、代々受け継いできた大切なブランドを、今のこの時代だからこそできる方法で進化させ守り続けている印象だ。中尾醸造では、進化のひとつとして海外進出も始めており、新たな層へのブランド発信が実を結ぶのも近い将来だと感じた。

中尾醸造株式会社

広島県竹原市中央五丁目9番14号
http://www.maboroshi.co.jp/